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東京地方裁判所 平成9年(ワ)8687号 判決 1998年1月27日

原告 株式会社日産クレジット

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 中村眞一

被告 Y

右訴訟代理人弁護士 小倉良弘

主文

一  被告は、原告に対し、金一億七三七五万〇七五五円及びこれに対する平成四年五月八日から支払済みまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、被告との間で、平成三年四月三〇日、次のとおりの約定で、原告が、訴外住友海上火災保険株式会社(以下「住友海上」という。)と被告との間の長期総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)の一時払保険料一億八〇〇〇万円を被告に代わって住友海上に支払い、被告が、原告に対し右立替金に手数料を付して返済する旨の立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結し、同日、住友海上に対し、被告のため、右金員を代位弁済した。

(一) 代位弁済日 平成三年四月三〇日

元本額 一億八〇〇〇万円

(二) 手数料 年九・八パーセント

(三) 返済方法 元本については平成八年四月二七日

手数料については、平成三年五月から平成八年四月まで合計六〇回にわたり、毎月二七日限り一四七万円宛

(四) 期限の利益喪失 被告が約定の返済を一回でも怠ったときは、期限の利益を失う。

(五) 遅延損害金 年二九・二パーセント

2  被告は、平成四年二月二七日に支払うべき割賦金(手数料)一四七万円の支払を怠り、同日、期限の利益を喪失した。

3  原告は、右期限の利益喪失の日の翌日である平成四年二月二八日から五年の消滅時効期間が経過した後の平成九年五月二日に右立替金の支払を求めて本件訴訟を提起した。

二  争点

1  本件の争点

消滅時効の中断の有無

被告が債務承認をしたか否か、その時期はいつか

2  原告の主張

(一) 平成四年五月七日、住友海上と被告との間の長期総合保険契約が解約されて、その解約返戻金一一二八万三一一九円が支払われたが、原告は、被告から、同日、右解約返戻金相当額の金員の弁済を受けた。

被告は、右弁済により、本件債務の承認を行ったものであり、同日、その消滅時効は中断した。

(二) 原告は、右弁済金のうち六二四万九二四五円を元本に、残余を未払手数料にそれぞれ充当した。

その結果、原告の被告に対する債権額は、残元本一億七三七五万〇七五五円及びこれに対する平成四年五月八日から支払済みまで年二九・二パーセントの割合による遅延損害金となった。

3  被告の主張

(一) 被告は、原告に対し、平成四年二月ころ、住友海上所定の定型書式により、本件立替払契約に基づく債務を担保するため、本件保険契約にかかる請求権につき質権を設定し、同時に、被告が期限の利益を失った場合は、原告が本件保険契約を解除しその解約返戻金を受領することができるとの権限を付与した。そして、住友海上は、同年二月二四日、右定型書面を受理し、質権設定と右委任を承認した。

原告は、同年四月三〇日、解約請求者兼振込依頼人を被告、その同意者を質権者たる原告、解約返戻金送付先を質権者たる原告の銀行口座とする本件保険契約解約請求書兼返戻金振込依頼書を住友海上宛に提出し、同年五月一日に本件保険契約は失効した。

(二) 右経緯に鑑みると、原告が受領した前記弁済は、質権者である原告が行った質権の実行に他ならないところ、質権の実行は、債権の消滅時効を中断しない(民法三五〇条、三〇〇条)から、右弁済は、時効中断の効力がない。

仮に、そうでないとしても、被告が前記解約請求書兼返戻金振込依頼書に署名捺印したのは、平成四年四月三〇日以前であるから、被告が債務承認をしたのは、同日以前である。したがって、本訴提起時にはすでに時効が完成していた。

第三当裁判所の判断

一  <証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件立替払契約締結の際、同契約に基づく債権を担保するため、被告から、その不動産につき担保権の設定を受けていたところ、平成三年一〇月ころ、右不動産の時価が低額で担保余力が全くなく、実質上の無担保状態であることが判明したため、被告に対し追加担保の提供を要求するとともに、本件保険契約にかかる解約返戻金請求権等につき仮差押え(東京地方裁判所平成三年(ヨ)第六七九九号)を行ったこと、なお、当時すでに、被告は、住友海上に対し本件保険契約にかかる解約返戻金請求権につき第一順位の質権を設定して、住友海上から、契約者貸付け(金額一億五四八六万二〇〇〇円)を受けていたため、右仮差押えの対象は、解約返戻金から右貸付金を差し引いた残り部分だけであったこと、その後、原告が、被告に対し、直ちに本件保険契約を解約して右仮差押えにかかる解約返戻金相当額を弁済するよう要求したところ、被告は、これを了承し、原告に対し、平成四年二月二四日ころ、本件立替金債務を担保するため、本件保険契約にかかる請求権につき質権(第二順位)を設定するとともに、本件保険契約解約及び返戻金振込依頼(振込先として原告名義の銀行口座を指定)の代理権を付与し、その旨の住友海上の定型書類に署名、押印をしてこれらを原告に交付したこと、ただし、その際、保険代理業を営んでいた被告は、原告に対し、本件保険契約締結から一年以内である平成四年四月三〇日以前に同契約を解約した場合、本件保険契約の代理業務を行った同業者の知人が多額の代理店手数料を保険会社に返還しなければならず、ひいては、その手数料の一部の配分にあずかった被告も含めて、多額の損害を被る結果になるとして、本件保険契約の解約を同年五月一日付けで行うよう要請したこと、そこで、原告は、被告に代わって、住友海上に対し、右書類を提出して同年五月一日付けで解約の承認請求をし、住友海上から、原告名義の銀行口座宛に、本件保険契約の解約返戻金(ただし、被告の前記借受金を差し引いた残金)として、同月七日一一一三万九三五二円、同月一五日一四万三七六七円、合計一一二八万三一一九円の各振込みを受けてその支払を受けたことがそれぞれ認められる。

二  右認定事実によれば、被告は、本件保険契約にかかる解約返戻金をもって、原告に対する本件立替金債務の一部弁済をする意思の下に、関係書類に署名、押印してその解約返戻金の受領を原告に委任したものであり、住友海上から、原告に対し、解約返戻金が支払われた平成四年五月七日(一部については同月一五日)の時点において、被告が原告に対し弁済による債務の承認をしたものと認めるべきである。

したがって、本件立替金請求権は、平成九年五月二日の本訴提起時において、右債務承認による時効中断から未だ五年を経過していないから、時効により消滅したものとはいえない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 市川賴明)

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